DX推進に取り組む企業が増えています。株式会社富士キメラ総研「2022デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編」では、2020年度のDX市場規模は1兆3,821億円、2030年度には5兆1,957億円に伸びると予測されています。
しかし、DX推進に失敗してしまう企業も多いです。DX推進に失敗しないように、DXの課題と解決策を学んでおきましょう。今回はDX推進の課題と解決策について詳しく解説します。
DX推進とは
DX推進とは、データやデジタル技術を活用して顧客目線で新たな価値を創ることをいいます。つまり、ビジネスモデルの変革に取り組むことを指します。
経済産業省はDX推進には2つの方向性があると述べました。
1つ目が、業務プロセスのデータを収集して見える化・数値化して、非効率な部分を特定して対策を講じることです。2つ目は新規事業の創出です。顧客が商品を使用する際のデータを収集・分析して、顧客ニーズを把握して新商品の開発に反映させることです。
つまり、経営力を上げるために何に取り組んでいくべきかを決めていくことが大切となります。
DX推進が必要な理由
DX推進が必要な理由は、企業の競争力を高めて5年後、10年後に企業が生き残るためです。地域や顧客、従業員に選ばれる企業になるためには、以下のような工夫が必要になります。
- お客様の消費動向を把握して、多様化する顧客ニーズに応える
- ワークライフバランスのために業務プロセスを見直す
- ニューノーマルな働き方に対応する
上記に対応するためには、レガシーシステム(時代遅れとなった業務基幹システム)を刷新が欠かせません。レガシーシステムの保守は費用が高くて部門間でデータ連携もしづらいため、DX推進の弊害となります。このシステムを使い続けると損失が出ると予測されているため見直していく必要があります。
DX推進が進まない理由
DX推進が進まない理由は2つあります。
1つ目がDX推進の取り組み方を理解しておらず、IT導入が目的になってしまうことです。「AIを活用して何かできないか」という発想に陥るとDX推進の目的がズレてしまいます。
2つ目がDX推進の体制が整っていないことです。DX推進は全部門で共通認識を持って取り組むべきですが、体制が整っていないと「私の部署には関係ない」という人が必ず出てきます。このような理由でDX推進が進まなくなります。
DX推進の取り組み方
経済産業省「デジタル時代の人材制作に関する検討会」には取り組み方がまとめられています。簡単にお伝えすると、以下のような流れで取り組んでいきます。
- 経営層がビジネス戦略を策定して目的を明確にする
- 全社を巻き込んでDX推進に取り組むことを報告し体制を整える
- 社内のデータを収集・分析して理想と現実の差分を把握する
- 理想と現実の差分を埋めるためにテクノロジーを活用する
大切なことは、5年~10年後にどのような会社でありたいかを考えて、理想と現実の差分をIT投資で埋めることです。
DX推進の6つの課題
マイケル・ウェイド教授の書籍「DX実行戦略-デジタルで稼ぐ組織をつくる」にて、「全世界の企業が取り組んできたデジタルトランスフォーメーションの95%は失敗に終わっている。」と述べています。DX推進に失敗しないためにも、どのような課題があるか把握しておきましょう。
1.DX知識の欠如
経営層がDX知識を保有しておらず「AIを活用して業務効率化できないだろうか?」と考え始め、DX推進がIT化となり失敗してしまうことがあります。またDX推進の取り組み方を理解しておらず、進め方を間違えて、周囲の協力を得られず失敗に終わってしまうことも多いです。
2.不十分な経営ビジョン
DX推進とは、企業の在り方を変えていく企業変革です。そのため、全社一丸となってDX推進に取り組んでいかなければいけません。
全社一丸となり、DX推進していくためには、経営ビジョンが欠かせません。外部の専門家にDX推進を投げ出したくなるかもしれませんが、5年後、10年後にどのような企業になっていくためにDX推進に取り組むかを考えることが大切です。
経営ビジョンが不十分だと、周囲から協力を得られずDX推進が失敗に終わることがあります。
3.DX人材の不足
DX推進では、経営の理想と現実の差分を埋めるためにIT投資を行っていきます。そのため、ITに詳しい人材が必要になります。しかし、DX推進の重要性が提唱されて市場拡大していき、IT人材が採用できなくなってきました。
みずほ情報総研株式会社「IT人材需給に関する調査」では、2030年には最大79万人のIT人材が不足すると報告されています。このように、DX推進に取り組みたいけれど人材が採用できないという課題も出てきています。
4.レガシー問題
多くの企業では、1980年代に導入した大型オフィスコンピュータを使用されています。1990年代にUnixやWindowsが台頭し、ダウンサイジング化の波が訪れてシェアが低くなってきましたが、銀行や政府機関などの基幹システムとして使用されています。
レガシーシステムは拡張性に乏しくメンテナンスがしにくいです。古いシステムのため保守できる人材が少なく、メンテナンス代金が高くなる恐れがあります。また、最先端のシステムと連携できなかったり、データ連携ができなかったりします。レガシーシステムを活用していることにより、DX推進が進まないというケースも多いです。
5.データ不足
DX推進に取り組むためには、データ収集・分析が欠かせません。なぜなら、データ分析しないと現場の状況を詳細に把握できないためです。
DX推進とはデータ分析をして、非効率な部分を特定して、必要な対策を講じて経営力を上げていくための取り組みです。データが不足している中でDX推進に取り組むと、失敗に終わってしまいます。
6.DX関連の予算不足
中小企業は、DX推進の予算が確保できないという悩みを抱えがちです。パーソルプロセス&テクノロジー株式会社「社内におけるDX推進に関する実態調査」では、DX推進の平均予算は1億~5億と発表しています。
この予算にはシステム導入だけでなく、維持・保守費用や人材育成費用が含まれていますが、中小企業が捻出しにくい金額です。予算面でDX推進ができないと悩む方も多く見受けられます。
DX推進の課題の解決策
DX推進の課題は解決できます。どのように解決していけばよいかを学んでおきましょう。
DX知識を習得する
経営層が、どのようにDX推進に取り組んでいけばいいのか知識を学習していきましょう。
- DX推進に関する書籍を読む
- DX推進に関するオンライン教材を購入する
- DX推進に関するセミナーに参加する
- 経済産業省のレポートを読む
- DXコンサルタントに相談をする
DX関連の知識を身に付けることで、失敗を防ぐことができます。
経営ビジョンを策定する
全社一丸となってDX推進に取り組むために、経営ビジョンを掲げましょう。経営ビジョンを策定するときは、以下のような流れで具体的に考えていき、周囲の協力を得られるようにしておきましょう。
流れ | 参考例 |
1.会社の存在意義を考える | 顧客や従業員に選ばれる会社になる |
2.10年後の会社の姿を考える | 生産性を上げて可処分所得を上げる |
3.理想の姿と現実の姿の差分を把握する | 基幹システムを刷新して生産性を上げる |
4.顧客に価値を提供する | データ連携して経営力を強化する |
リスキリングを実施する
DX推進でIT投資をしたら、従業員にシステムを活用してもらわなければいけません。そのため、DX推進で新たに発生する業務に役立つスキルや知識を取得する場を提供しましょう。新たな知識を習得してもらうことをリスキリングといいます。リスキリングを実施すれば、新たにIT人材を採用しなくて済むようになります。
リスキリングは、どのようなスキルが必要かを把握した上で実施しましょう。DX人材に求められるスキルを知りたい方は、下記の記事を読んでみてください。
レガシーシステムからの脱却
レガシーシステムを活用し続けている限り、DX推進が上手く進まなくなります。そのため、業務基幹システムを刷新しましょう。
新たなシステムを導入する際には、どのような業務プロセスでデータを活用しているかを説明します。また、データ連携できるように加工をしてもらいましょう。信頼できるベンダーに相談することが大切です。
データを収集する
DX推進に取り組むためにはデータ収集が欠かせません。そのため、以下のようなデータを収集していきましょう。
顧客データ | 年齢や性別などから、どのような商品が売れているかを把握できる
|
業務データ | 重複している業務がないか、改善できる箇所はないかを把握できる
|
商品データ | どのような商品が売れるのかを把握できる
|
社員データ | 自社に見合う人物、活躍する人の特徴を把握できる
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補助金を活用する
DX関連の予算が足りないと悩んだら、補助金を活用しましょう。詳細は割愛しますが、DX推進に活用できる補助金には、以下のようなものがあります。
- ものづくり補助金
- IT導入補助金
- 事業再構築補助金
- 小規模事業者持続化補助金
- キャリアアップ助成金
さまざまな補助金・助成金があり、中には1億円の補助額のものもあります。補助金を上手く活用すれば、DX関連の予算を補うことができるでしょう。
DX推進の課題を解決した企業事例
旭化成株式会社は繊維、住宅、建材、エレクトロニクス、医薬品、医療等の事業を行う日本の大手総合化学メーカーです。同社の企業理念は「人びとがよりよい生活を実現できるよう、最も良い生活資材を、豊富に低価格で提供すること」と掲げられています。
同社は世界中に溢れる偽造品による被害を解決したいと考えていました。偽装品が出回ると企業は企業信用を失い利益が確保できません。また、お客様に健康被害が出てしまいます。そのため、信頼の担保や利益の確保のために偽造品を判別できる真贋判定システムを開発しました。
真贋判定システムは「真贋判定ラベル」「ゲート」「ブロックチェーン」を活用し、流通プロセス内で偽造品が混ざらないようにできるシステムです。真贋判定システムで偽造品が出回ることを防止すれば、消費者は本物の商品を手に入れられ、企業は利益を得ることができます。
同社は経営理念に基づいた経営ビジョンを描くことで、よりよい生活を実現するサービスを生み出すことに成功しています。
DX推進の事例を詳しく知りたい方は、下記の記事を読んでみてください。
DX推進の課題についてまとめ
DX推進とは、データやデジタル技術を活用して顧客目線で新たな価値を創ることをいいます。しかし、DX推進に取り組む上では、さまざまな課題が出てきがちです。しかし、各課題は解決していくことができます。この記事ではDX推進の課題と解決策をご紹介しました。そのため、この記事を読んでDX推進に取り組んでいくようにしましょう。