近年は自動車業界においても労働者不足を解消し、生産性を高めるために「スマートファクトリー」を目指す企業が増えています。
本記事では自動車業界におけるスマートファクトリーを詳しく解説し、メリットや今後の課題、導入事例などを紹介するので自社導入時の参考にして下さい。
スマートファクトリーとは?
工場の基幹システム(ERP)や設備、製造実行システム(MES)など生産に関わる一連のシステムがネットワークによって接続され、高い生産性を誇る工場をスマートファクトリーといいます。
スマートファクトリーを導入すれば生産状況や問題点を常に検出・把握できるため、現状を把握したうえで最適な改善活動の展開も可能です。
現在自動車業界においてもスマートファクトリーの需要が高まっており、今後もその市場規模がさらに高まることが予測されます。
なぜ自動車業界でスマートファクトリーが必要なのか
現在スマートファクトリーはさまざまな分野でシェアを拡大していますが、なぜ自動車業界においての必要性が高まっているのでしょうか。では自動車業界でスマートファクトリーが必要な理由を紹介します。
効率的な技能伝承のため
従来の自動車業界では熟練工による技能伝承が盛んに行われ、企業の技術力向上に貢献してきました。しかし現在は自動車業界においても確かな技術を持った熟練工の数が減少し、多くの企業で技能伝承が困難になっています。
さらに少子高齢化により若い世代の労働力も不足し、次世代への技能伝承ができない企業も増加しているのが現状です。そこでスマートファクトリーを導入し、熟練工の確かな技術を最新技術が搭載されたロボットに技能伝承を行う企業も増えています。
新たな価値創造のため
近年の自動車業界においては、新たな価値を創造するためにスマートファクトリーを導入する企業も増えています。人間による生産・コスト管理には品質的に限界がありますが、高度なIT技術を利用したスマートファクトリーを導入すれば徹底した管理が実現可能です。
そして生産現場における総合的な管理が徹底されれば、より高い品質の商品開発にも繋がって新たな価値創造にも繋がります。
労働力を確保するため
労働力を確保する目的で、スマートファクトリーを導入する企業も増えています。
現在はさまざまな業種で少子高齢化による労働力不足が懸念されており、自動車業界においても慢性的な労働力不足が問題視されています。
そこで労働力不足を解消して生産性を高めるためにも少人数でも生産性を高める仕組みづくりが重要視され、その動向に伴ってスマートファクトリーを進める企業が増加しました。
また急速的に進行する高齢化に伴い、高齢の労働者でも生産性を維持できるオートメーション化のためにスマートファクトリーを導入する企業も増えています。
自動車業界におけるスマートファクトリーのメリット
自動車業界においては労働力確保や生産性向上のためにスマートファクトリーを導入する企業も多く見受けられますが、導入すればどのようなメリットを得られるのでしょうか。
ここからは自動車業界におけるスマートファクトリーのメリットを解説します。
製造コストの管理や削減ができる
製造コストの管理や削減ができるのも、自動車業界でスマートファクトリーを導入するメリットの1つです。製造コストを削減するためには設備の稼働状況や生産にかかる時間、不良品の発生数や人件費など、さまざまなデータを検出して現状を把握しなければいけません。
従来の生産現場ではそのような細かなデータを検出するのは困難で、確かな指標がないために適切な製造コスト管理も不可能でした。そこでスマートファクトリーを導入し、IT技術を駆使した管理を行うことで製造コストの管理・削減が可能になりました。
スマートファクトリーでコスト削減できる主要の費用はこちらです。
コストの種類 | 月に削減できるコスト価格 | 難易度 |
人件費 | 20万円〜150万円 | 中 |
紙やペンなどの資材 | 1〜10万円 | 小 |
プリンターやスキャナなどの紙関係の機械 | 20〜150万円 | 小 |
不良品の生産改善 | 5〜30万円 | 中 |
生産品質の向上
自動車業界でスマートファクトリーを導入すれば、生産品質を向上させることができます。
自動車の生産現場に品質管理機能を持つスマートファクトリーを導入すれば、商品の製造履歴なども明確になってユーザーに確かな付加価値を提供できます。
さらに優れた管理機能により生産ラインの異常発生トラブルも迅速に検知するので、不良品製造などの品質トラブルも事前に回避できるのもメリットです。
トラブルに迅速に対応できる
トラブルに迅速に対応できるのも、自動車業界でスマートファクトリーを導入するメリットです。スマートファクトリーは優れたツールですが完璧ではないので、導入してもトラブルが発生することもあるでしょう。
しかしトラブル発生時にもスマートファクトリーは優れた管理機能を発揮し、早急な現状把握や対策を検討・実施してくれます。
自動車業界のスマートファクトリー導入事例を紹介
近年自動車業界では多くの企業がスマートファクトリーを導入し、経費削減や生産性向上などの成果を得ています。では自動車業界で実際に行われたスマートファクトリーの導入事例を紹介します。
株式会社ダイセルの事例
株式会社ダイセルは、自動車用エアバッグ用インフレ―タを製造している播磨工場でスマートファクトリーを導入した事例の1つです。スマートファクトリーによる画像解析システムを実用化し、生産に必要な人・設備・材料の3要素のデータを分析して生産性向上を図りました。
具体的な取り組みとして作業者の勤務状況や設備の状況をカメラで撮影・監視し、その動向をAIがデータ化して今後の施策を立案可能にしました。
旭鉄工株式会社の事例
自動車部品製造にスマートファクトリーによるIoTを活用し、自社生産ラインの自動モニタリングシステムを開発したのが旭鉄工株式会社です。この事例では設備的にも古い工場がスマートファクトリーによって高い生産性を得ることに成功しました。
具体的には製品完成ごとにパルス信号が発生するように調整し、発生したパルスの数で生産量、パルスの時間のスパンで生産にかかる時間を計測可能にしました。
これらの情報は担当者のスマートフォンにクラウド経由で転送され、そのデータを今後の工程管理に組み込んだ画期的な事例です。
日産自動車栃木工場の事例
日産自動車栃木工場は、2021年10月にカーボンニュートラル実現に貢献するための自動車製造をテーマとして掲げました。そしてその実現のためにスマートファクトリーを積極的に導入し、生産性の向上を高めた事例です。
具体的な取り組みとしてスマートファクトリーによる生産用ロボットの常時監視や、異常発生時の自己診断システムを導入しました。この取り組みにより生産ラインのトラブル防止に成功し、設備稼働率の向上にも繋がりました。
自動車業界のスマートファクトリーの今後の課題
自動車業界でスマートファクトリーを導入すれば、生産性の向上や品質管理など多くのメリットを得ることができますが、導入による課題があるのも現状です。
では自動車業界のスマートファクトリーの今後の課題を解説します。
セキュリティ面に関する課題
従来の自動車製造工場の生産管理システムは、一般的に外部ネットワークとの連携を想定せずに設計されていました。一方のスマートファクトリーでは外部ネットワークとの連携も必要になり、その動向に伴ってセキュリティリスクが発生するのが現状です。
したがって設備のマルウェア対策や不正アクセスの防止、各部門のネットワーク環境の分離など、セキュリティ面に関する課題に対する対策が欠かせません。
人材に関する課題
自動車業界でスマートファクトリーを導入する際には、人材に関する課題も避けることはできません。生産ラインにスマートファクトリーを導入して有効活用するためには、AIスキルをはじめとした専門的なスキルが必要です。
さらに検出したデータを分析し、今後の改善に導入するなどAIスキルだけでなくデータ検証や施策立案に関する高い能力も必要になります。そして高齢化による人材不足が問題視されている昨今は、このような高いスキルを持った人材の確保が困難になっています。
さらにスマートファクトリーの課題についてはこちらの記事で深掘りしています。
自動車業界のスマートファクトリーについてまとめ
近年の自動車業界においては労働力不足や技能継承問題など、さまざまな問題を抱えている企業も多く見受けられます。そのような問題を解決するためにスマートファクトリーを導入するのも有効ですが、導入による課題も把握し、適切な処置を取らなければ十分な成果を得ることはできません。
納得できる成果を上げるためにも、導入による課題や問題点を把握したうえで技能伝承や生産性向上、人材不足の解消などを念頭に置きながらスマートファクトリー化を進めて下さい。