金属部品や製品の加工・製造などを目的とする金属加工業界は、日々の生活になくてはならない「自動車」や「電子機器」「医療機器」など幅広い業界を支える重要な業界です。
一方で、製造業の需要が高まる中で多くの企業が金属加工業界に参入しており、価格競争や素材の調達の不安定さにより業務の効率化や生産性の向上が求められる業界となりつつあります。
そこで大きく注目されるのがAIの導入です。本記事では、今後の金属加工業界の特徴や課題を紹介し、AIの導入によるメリットや市場の動向についても詳しく解説していきます。
AIの性能について
AIとは、人工知能を指します。自身で学習データから答えを導き出すことができ、認識・理解をすることが可能です。つまり人間が操作をしなくても自律的な行動ができるのです。
しかし、AIの認識には多くの誤解があります。例えば、AIとロボットが「同じもの」という認識がありますが実際は異なります。ロボットはあらかじめプログラムされた動作しかできず、自身で考えることも答えを導き出すこともできません。
また、AIはすべての結果を完璧に予測することもできません。AIは膨大なデータを取り込み学習を行いますが学習した内容に答えがない場合は「推測」を行います。
金属加工業界でAIの導入は今後広まってくると予想されますが、全ての業務が完璧にできるわけではないことを覚えておきましょう。
また、AIについて詳しく知りたい方は下記記事をあわせてご覧ください。
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金属加工業界の特徴
金属加工業界は日本では「ものづくり産業」とも言われ、金属の切削や加工などを行います。加工技術は高度なテクニックが求められるため高い技術力を持つ職人が多くいます。
他の産業に比べて市場の経済動向に影響を受けやすく景気が良い時には好調な会社が多くみられるのも特徴です。また、製造業全体では海外生産へのシフトが進んでいますが金属加工業界は海外生産へのシフトを行わない企業が多い傾向にあります。
なぜなら、国内の金属加工技術は世界にも劣らない技術であり、外国企業と比較して優位性を確保するためです。近年ではコスト削減のため海外生産を行う企業もありますが、金属加工業界は比較的海外への進出が少ない産業という特徴があります。
国内における金属製品(加工)業界の売上高ランキングTOP5は以下表をご覧ください。
順位 | 会社名 | 売上高(万円) |
1 | 株式会社LIXIL | 1,495,987 |
2 | 東洋製罐GHD | 906,025 |
3 | 日本発條 | 693,246 |
4 | 三和HD | 588,159 |
5 | SUMCO | 441,083 |
金属加工業界の課題
金属加工業界は多くの課題を抱えているのも現状であり、課題を解決するために今後AIの導入が加速するのではと言われています。その課題について以下3点を解説します。
- 市場の競争激化
- 人手不足
- 精度の高い加工技術
市場の競争激化
金融加工業界は国内だけでなく世界的に市場の競争が激化している傾向にあります。近年は海外でも日本製の金属加工工作機械を使用して製品の精度を高める動きが浸透しており、日本と同等の製品を作り出すことができるようになっていることから品質での差別化が難しくなっています。
また、IT化による生産性の向上での差別化も難しくなってきている現代では、AI導入により高い技術力で業務の効率化が求められているのです。
今後も金属加工業界の市場は激化してくることが予想され、市場の中で生き抜くためにAI導入は必須となってくるでしょう。
人手不足
金属加工業界だけでなく製造業全体での問題ですが、国内の少子高齢化による労働人口の減少は大きな課題となっており、人手不足を補うためにはAIの導入を無視できない状況になると予想されます。
また、人手不足のもう1つの要因は製造業における3Kと言われる(きつい・汚い・危険)のイメージによる人手不足も挙げられます。
特に金属加工業界では切削作業や溶接作業など、危険な作業が多くあります。こうしたマイナスイメージを払拭することは決して簡単なことではなく、今後も人材獲得は難しくなってきます。
精度の高い加工技術
金属加工業界では切削や加工などの技術は高度なテクニックが求められます。世界の企業に負けない製品を作り出してきたのは高い技術力を持った職人がいたからこそです。
しかし、人材不足により技術の継承ができなくなり高い技術力を持つ人が少なくなっています。また、こうした高い技術も価格の安い機械で十分実現できるようになっており、人間に精度の高い加工技術が不要になっているのも現状です。
今後もAIの技術が進歩すれば、今よりも精度の高い加工技術に実現ができるようになるため、金属加工業界の市場を技術力で戦うことは難しくなってくるでしょう。
金属加工業界にAIを導入するメリット
前述で金属加工業界の課題について解説しましたが、課題解決のためにはAIの導入が必須となってきます。そこで、AIを実際に導入するメリット以下4点を解説します。
- 生産性の向上
- 人件費の削減
- 事故の防止
- 製品の精度向上
生産性の向上
AIを導入することで少ない人員で業務をスムーズに行えるため、生産性の向上が期待できます。
人手不足を在籍する従業員で補うことは1人にかかる負担が大きくなり、業務のパフォーマンス低下も招いてしまいます。
しかし、金属加工の業務でも「品質のチェック」などAIに任せることで、これまでに品質チェックを行なっていた人員を重要な業務の回すことができるため生産性の向上を期待できます。
人件費の削減
AIを導入することで人件費の削減が期待できます。金属加工業界では24時間機械が動き続けていることもあり、交代制で従業員を出勤させることは珍しくありません。
しかし、人手不足による影響で既存の従業員の労働時間や残業時間が増えていることは大きな課題となっており、長年懸念される問題です。
こうした問題もAIであれば、24時間365日稼働することも可能なうえ、疲労することもないため業務の質を落とすことなく人件費の削減にも貢献します。
事故の防止
金属加工業界では切削・溶接や工作機械を使用した危険な業務が多くあります。こうした危険な業務に対してAIを活用することで事故の防止に役立ちます。
例えば、AIに予知保全を任せればセンサーによってリアルタイムで生産設備の状態を確認することができ、万が一工作機械などにトラブルが生じてしまった場合、事故を未然に防ぐことができます。
こうした危険な業務は従業員にとっては避けたいものであり、こうした事故の防止率が向上することで従業員の満足度にもつながります。
製品の精度向上
金属加工業界では製品の検査を目視で行い、製品の品質を管理しますがAIによって品質の統一化を行うことが可能になります。
従業員が品質の検査を行う場合、その日のコンディションや能力によって検査精度には個人差が生じてしまいます。また、小さな傷や深部にある傷も見落としてしまうことはあります。
しかし、AIであれば人間が目視で見落としてしまう傷も識別することができ、検査を行えば行うほど機械学習によって品質の検査精度を向上させることができます。
加工におけるAIの活用事例
ここからは実際に金属加工業界でAIを活用した事例について以下3点を解説します。
- ビビり振動の抑制
- OSP-AI加工診断
- 工具ホルダによる加工の分析
ビビり振動の抑制
ビビり振動とは、工作機械の工具は製品を削る際に加工面に生じる起伏をきっかけに、工具と製品が共振して発生するものです。ビビり振動が発生することで、製品に波のような跡が残り加工面の部位を悪化させることになります。
これまで、ビビり振動は数式で切削条件を変更することは可能でしたが、工具の摩耗度など不確実な要素があるため最適な切削条件を求めることはできないことがほとんどで、ビビり振動の抑制は簡単ではありませんでした。
しかし、センサーが内蔵されたミル主軸により加工振動を監視し、ビビり振動を検出するとAIによって瞬時に適切な加工条件を見つけ出すことができ、ビビり振動の抑制が容易になりました。
引用:ヤマザキマザック
OSP-AI加工診断
OSP-AI加工診断は、OSPに内蔵したAI技術によりドリル加工の異常検知と摩耗の可視化を行うことで、工作物の損傷や損傷による工具の交換費などを削減するができる技術です。
これまで工作物の不良に繋がる工具破損の課題を解決することは難しく、人間が常に点検を行い、現場での経験を基に工具交換を行なっていました。しかし、人間が点検する以上突発的な工具破損を防止することは厳しいです。
OSP-AI加工診断であれば、工作機械が自律的にドリル加工の状態診断をリアルタイムに実施することで、工作物の不具合回避や工具費の削減を実現することが可能になります。
引用:NEC
工具ホルダによる加工の分析
ビビり振動やOSP-AI加工診断は工作機械そのものにセンサーを埋め込みますが、工具ホルダにセンサーを埋め込み加工の分析を行う技術もあります。
工具ホルダをつけることで、取得したデータを用いて加工条件の最適化や工具の寿命測定をAIで行うことができます。AIに加工の分析を行わせることで工具を限界まで使用することができ、コストの削減も可能になります。
引用:MULTI INTELLIGENCE|株式会社山本金属製作所
また製造業でのAI活用事例については以下記事をあわせてご覧ください。
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金属加工業界の今後の展望
本記事では金属加工業界の特徴や課題、AIの活用事例など詳しく解説してきました。
国内の金属加工業界はこれまで高い技術力を持ち、海外企業にも劣らず優位性を確保してきました。しかし、技術力での差別化が難しくなっている現代では、労働人口不足も併せてAI導入による生産性の向上と業務効率化など多角的な取り組みが求められます。
今後の金属加工業界の課題を解決するためには、AIの導入は必須となるでしょう。ぜひAIの導入を検討してみてはいかがでしょうか?