「AI人材を育成したいが、何から始めていいかわからない」と悩んでいる企業も多いのではないでしょうか。AIの活用が本格化するなか、業務改善や競争力強化を目的に、AI人材の社内育成に着手する企業が増えています。
しかし、AI分野は専門性が高く、従来のIT教育とは進め方も求められるスキルも異なります。そのため、やみくもにeラーニングや研修を導入しても、スキルが定着しない、実務で使えないといった課題に直面するケースも少なくありません。
そこで本記事では、AI人材育成を成功させるための5つのステップをわかりやすく解説し、実際の企業事例やおすすめの育成支援サービスも紹介します。初めて取り組む方でも具体的なイメージが持てる内容になっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
AI人材育成はなぜ必要?
AI人材の育成が必要な理由はさまざまですが、経済産業省が公表した「AI人材育成の取組」によると、AI等を使いこなして第4次産業革命に対応する必要があると言われています。
しかし、AI/IT人材の不足は、現状約17万人から2030年には約79万人に拡大すると予測され、今後深刻化すると言われています。
出典:経済産業省
また、既存の中堅層にもスキルの転換が求められています。ITリテラシーを持つ層の底上げも含め、社会全体でAI時代の人材構造を再定義し、持続可能な成長を支える人材インフラを整える必要があるのです。
AI人材が不足している3つの要因
AI人材が不足している要因は主に以下3つです。
- AIを教える教育体制が整っていない
- 企業側の受け入れ体制・人材要件のミスマッチ
- 海外に優秀な人材が流出している
①AIを教える教育体制が整っていない
AI人材が不足している要因の一つは、AI技術を体系的かつ実務レベルで教える教育体制が国内に整備されていない点が挙げられます。多くの大学や専門学校ではAIに関する基礎を学ぶことはできますが、ビジネス課題に応用できるような実践的カリキュラムや現場経験を積める機会は限られています。
また、教員側もAI分野の最新トレンドや実装技術に精通した人材が不足しており、学ぶ側と教える側のギャップも深刻です。現場で即戦力となるにはデータ処理・可視化・モデル運用などのスキルも必要ですが、実務に即した教育がされていないことが多く、「AIを学んだが使いこなせない人材」が生まれやすい構造になっています。
②企業側の受け入れ体制・人材要件のミスマッチ
もう一つの大きな要因は、企業がAI人材に対して過度に高いスキルや経験を求めており、実際に存在する人材との間にミスマッチが生じていることです。多くの企業は「AI人材=すぐに高度な分析やモデル構築ができる」と捉えており、実務経験や博士号レベルの知識を要件とする求人も少なくありません。
しかし、実際にはポテンシャルのある技術者が多く、採用に至らないケースが増えています。また、AIを活用したいという企業の意欲は高くても、実際にどの部署でどう使うのかが明確でないまま人材を採用し、業務設計が不十分なために「活用されない人材」となってしまうこともあります。
③海外に優秀な人材が流出している
三つ目の要因は、優秀なAI技術者や研究者が日本国内ではなく、待遇や機会に恵まれた海外の企業や研究機関に流出していることです。世界的にAI人材は取り合いになっており、特に米国や中国などの大手IT企業は、優秀な人材に対して高い報酬、働き方、先端研究への参加などの条件を提示しています。
一方、日本の企業では年功序列や保守的な評価制度が根強く、AI分野における研究・実装において裁量が持ちにくい職場環境も少なくありません。そのため、キャリアの可能性を広げたいと考える若手や博士人材が、より自由度と成長機会の高い海外を選ぶのは自然な流れともいえます。
AI人材に求められるスキル・知識
AI人材に求められるスキル・知識は主に以下の3つです。スキルを学習できるセミナーもあわせて紹介しています。
- プログラミングスキル
- 機械学習・ディープラーニング知識
- データ分析・統計の基本知識
①プログラミングスキル
AIを扱うには、まず「コードを書いて命令を与える」プログラミングスキル必要です。特にAI分野では、Pythonという言語が広く使われています。Pythonは文法がシンプルで読みやすく、AI開発に使える豊富なライブラリがそろっているため、初心者でも取り組みやすいのが特徴です。代表的なライブラリには以下があります。
- NumPy/Pandas
- scikit-learn
- TensorFlow/PyTorch
AIを動かすには「データを読み込む→処理する→モデルを作る→結果を出す」という一連の流れをコードで表現する力が必要です。
②機械学習・ディープラーニング知識
AI人材には、「AIとは何か?」「機械学習とはどう動くのか?」といった基本的な仕組みへの理解も必要です。特に重要なのが、機械学習・ディープランニングの2つの知識です。
2つの仕組みを理解することで、「どんな課題に、どんなAIモデルが適しているのか」「どんなデータが必要なのか」を判断できるようになります。実務では、ただコードを書く以上に、課題設定とモデル選定が重要なスキルになります。
③データ分析・統計の基本知識
AIは「データを使って学習する」仕組みなので、データを正しく理解し、扱える能力「データリテラシー」が必要です。具体的には、以下のような統計・分析の知識が求められます。
- 平均・中央値・分散・標準偏差など、データの傾向を把握するための基礎統計
- 相関関係・回帰分析など、データ同士の関係性
- グラフによる可視化を通じた理解
上記のスキルがあると、「データが偏っていないか?」「この結果は信頼できるのか?」といった判断ができるようになり、AIモデルの品質も高まります。
3つのスキルや知識を身につけるためにおすすめのセミナーを2つ紹介します。
データサイエンティストセミナー
「データサイエンティストセミナー」は、未経験者でも実務レベルまでの基礎から応用までを体系的に習得できるセミナーです。Pythonによるデータ処理や統計の基礎、ビジネス課題解決のための仮説検証、エネルギー消費やマーケティング予測、時系列分析といったテーマをもとに、座学と演習を通して実務直結のスキルを段階的に学習可能。
統計学・前処理・Python入門・分析実践、ビッグデータ解析・プロジェクトマネジメント・課題解決演習などを網羅しています。セミナー受講後は255ページにおよぶオリジナル教材も配布されるため、復習にも活用できます。
セミナー名 | データサイエンティストセミナー |
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運営元 | GETT Proskill(ゲット プロスキル) |
価格(税込) | 41,800円〜 |
開催期間 | 2日間 |
受講形式 | 対面(東京)・ライブウェビナー・eラーニング |
Python基礎セミナー講習
未経験からPythonの基礎スキルを体系的に習得できる「Python基礎セミナー講習」は、プログラミング初心者から実務で使えるスキルを短期間で身につけたい方に最適な講座です。Pythonの文法や環境構築、データ処理、スクレイピング、画像処理、Excel自動化、さらにはAI実装までを段階的に学べる内容。
Pythonの基本文法やオブジェクト指向、Webからの情報自動取得などのスキル、データ可視化やOpenCVによる画像処理、scikit-learnを活用した機械学習、Excel自動処理の実装など応用力を養います。
セミナー名 | Python基礎セミナー講習 |
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運営元 | GETT Proskill(ゲット プロスキル) |
価格(税込) | 27,500円〜 |
開催期間 | 2日間 |
受講形式 | 対面(東京・名古屋・大阪)・ライブウェビナー・eラーニング |
AI人材の育成を成功させる5つのステップ
AI人材の育成を成功させるには以下5つのステップで行いましょう。
- 育成の目的とゴールを明確にする
- 社員のリテラシーを把握する
- 自社に最適なレベルの講座・セミナーを選択する
- 実践で学習した内容を活用する
- 効果検証と継続的に学習をする
①育成の目的とゴールを明確にする
まず最初にやるべきことは、「なんのためにAI人材を育てたいのか?」という目的をはっきりさせることです。
たとえば、「営業レポートを自動化したい」「在庫管理の予測をしたい」「社内のDX推進リーダーをつくりたい」など、AIをどう活用したいかで、必要なスキルや学び方が変わってきます。
ゴールがぼんやりしたままだと、「とりあえずAI研修をやったけど意味がなかった」という失敗に繋がりやすくなります。
②社員のリテラシーを把握する
次に育成したい社員が「今どのくらいAIやITのことを知っているのか」を把握することです。
Pythonや統計に全く触れたことがない人に、いきなり機械学習の研修をしても、理解できずに挫折してしまいます。逆に、既にある程度のITスキルがある人には、基礎だけだと物足りないです。つまり、社員のリテラシーにあわせた講座を選ぶために重要な工程なのです。
だからこそ、事前にアンケートやスキル診断などを行い、どのレベルが合っているか?を見極めることがとても重要です。
③自社に最適なレベルの講座・セミナーを選択する
社員のリテラシーを把握したら、最適なレベルの講座・セミナーを選びましょう。AI研修には色々な種類がありますが、主に以下3つのレベルに分けられます。
- AIとは何かを学ぶ入門講座や、データリテラシー講習
- Pythonを使った実践研修や、機械学習モデルの作成
- AI導入プロジェクトのマネジメント講座
業務に活かすなら、できるだけ「演習付き」や「実務データを使った研修」がおすすめです。
④実践で学習した内容を活用する
学習した内容は、実際の業務に活かしてこそスキルとして身につきます。たとえば、分析手法や可視化ツールを学んだ社員には、「自社の売上データをもとに季節変動を分析する」といった実践の機会を作ってあげることが重要です。
社内でミニプロジェクトやAI活用チームを立ち上げ、実際の課題に対して少人数で改善提案を進める環境を整えることで、チーム間でのノウハウ共有や現場課題への解像度も高まるでしょう。
⑤効果検証と継続的に学習をする
AIの技術は日々進化しており、数ヶ月前の知識がすでに古くなっていることも珍しくありません。そのため、1回の研修で終わらせず、継続的に学習とスキルアップの機会を設けることが、人材育成の成功につながります。
「研修を受けて終わり」ではなく、「その後半年以内にどのように業務に活かしたか」「何を継続して学んでいるか」などを把握・評価できる体制を整えましょう。
また、社内制度として「AIスキルの習得を評価に組み込む」など、学び続けることに対するインセンティブがあると、社員のモチベーション向上にもつながります。重要なのは、研修の効果を「数字や行動の変化」として見える化し、定期的に改善していくことです。
おすすめAI人材育成サービス3選
どのAI人材育成サービスを利用していいかわからないという方は以下3つのセミナーの受講を検討してみてください。
- AIエンジニア育成講座
- 生成AIセミナー
- DX・AI人材育成研修サービス
①AIエンジニア育成講座
未経験からAI開発スキルを実務レベルで習得できる「AIエンジニア育成講座」は、AIプログラミングの基礎から技術の実装までを一気に学べる講座です。
基礎では、PythonによるAIプログラミングや機械学習の基本、自然言語処理やセンサーデータを用いた行動解析までを網羅し、応用では画像認識AIの実装、CNNや転移学習、さらに時系列データを扱うRNN・LSTMの仕組みやコーディング技術まで幅広く学習可能。
開発環境の構築からモデル評価・チューニング、実用化に必要なプログラミングまでを段階的に習得できるため、「AIに強いエンジニア」を最短で目指す方に最適です。
セミナー名 | AIエンジニア育成講座 |
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運営元 | GETT Proskill(ゲット プロスキル) |
価格(税込) | 41,800円〜 |
開催期間 | 2日間 |
受講形式 | 対面(東京)・ライブウェビナー・eラーニング |
②生成AIセミナー
「生成AIセミナー」は、最新の生成AIツールやプロンプトエンジニアリングを実務に活かしたい方に最適な講座です。
ChatGPTやMicrosoft Copilotの仕組みや使い方、プロンプトの作成法、生成AIの得意・不得意の見極め方などを学び、画像・動画・コード生成など各種ツールの操作体験、情報漏洩リスクとその対策、自社独自ChatGPTの作り方までをカバーします。
受講者には復習用の「生成AI完全攻略セミナーガイド」も配布され、受講後のスキル定着も期待できるでしょう。
セミナー名 | 生成AIセミナー |
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運営元 | GETT Proskill(ゲット プロスキル) |
価格(税込) | 27,500円〜 |
開催期間 | 2日間 |
受講形式 | 対面(東京・名古屋・大阪)・ライブウェビナー・eラーニング |
③DX・AI人材育成研修サービス
「DX・AI人材育成研修サービス」は、未経験からDX実践者・推進者を育てるための体系的な教育プログラムです。
まずは「DXレベルチェック」により貴社の現状スキルを可視化し、その結果に基づいて、課題に最適な研修プランをご提案。短期集中型のハンズオン研修から中長期の階層別育成まで、業務と並行しながら学べる柔軟なカリキュラム設計が可能です。
教育は製造業・建築業にも精通した10年以上の実績を持つコンサルタントが対応し、単なるAI教育にとどまらず、業務効率化や新事業創出などのDX成果創出までを一気通貫で支援。また、カリキュラム実施後にはワークショップやアウトプット演習を通じて実務定着を図り、企業の組織力強化へとつなげます。
AI人材の育成における企業の取組事例
AI人材の育成における企業の取組事例を3つ紹介します。
企業名 | 課題 | 取組の効果 |
株式会社サイバーエージェント | 全社員における生成AIのリテラシー向上とエンジニア・機械学習エンジニアの専門スキル底上げ | 役職別・職種別に応じたリスキリングプログラムを導入し、AI活用スキルの社内定着を推進 |
株式会社東芝 | 急速に進化するAI分野に対応するための、大規模なAI人材の育成と確保 | 東京大学との連携による教育プログラムと新規採用・社内リスキリングで、AI技術者数を約3年で2100名に増加 |
ダイキン工業 | 製造業としての競争力維持のため、即戦力となる高度AI人材の育成 | 400名以上のAI人材を輩出し、今後は他社との情報共有を通じて製造業全体の底上げを目指す |
①株式会社サイバーエージェント
サイバーエージェントは、2023年10月から「生成AI徹底理解リスキリング」プログラムを開始しました。この取り組みは、全社員・エンジニア・機械学習エンジニアの三層に分けて段階的に実施されており、全社員には生成AIの基礎知識や業務活用、法務・セキュリティのリテラシー向上を目指すeラーニングを実施。
エンジニア向けには大規模言語モデルの開発スキル向上、機械学習エンジニア向けにはプロダクトごとの課題解決に資するモデル構築・チューニングのスキル習得を目的とした独自プログラムを展開しています。
2025年末には全エンジニアの半数がAIを駆使できる組織を目指しており、AI活用の社内浸透と人材の底上げを推進しています。
②株式会社東芝
東芝は、AI人材の大規模な育成と確保を戦略的に進めており、年間100人規模でAI人材を育成する社内プログラムを展開しています。特に東京大学大学院情報理工学系研究科と共同でAI技術者育成プログラムを開発し、グループ全体のAI技術者数を2019年の約750名から2022年度には2100名へと大幅に増強しました。
プログラム内容は、AIの基礎から応用、ビジネス実装に至るまで幅広く、実践的なスキル習得を重視。また、積極的な新規採用と社内人材のリスキリングを両輪で進め、AI技術者の専門性向上と現場への実装力強化を図っています。
③ダイキン工業
ダイキン工業は、製造業の国際競争力強化を見据えたAI人材育成の独自施策として「ダイキン情報技術大学」を設立し、従来の常識を覆す育成方針を打ち出しています。
新入社員を約2年間、業務に就かせずにAIやデジタル技術の学習に専念させることで、実務に直結した高度なAIスキルを身につけさせています。プログラムからは既に400名を超えるAI人材が卒業し、各部門でリーダーとして活躍。今後はこのノウハウを社内にとどめず、製造業全体でAI活用の情報共有を推進し、日本のものづくり全体の底上げを目指す方針です。
ダイキンの取り組みは、即戦力となるAI人材の計画的な育成と、業界全体への波及効果を両立する先進的な事例として注目されています。
以下の記事では、AI人材だけでなくDX人材育成についての事例も紹介していますので、あわせてご確認ください。
AI人材育成についてのまとめ
AI人材の育成は、単なる一時的な研修や知識習得では終わりません。企業が自らの目的や業務課題に応じた明確なゴールを設定し、社員一人ひとりのリテラシーレベルに応じた学習、継続的な実践と評価・改善のサイクルを回すことで、実務で活躍できるAI人材が育ちます。
特に今後のAI導入は、単なる技術革新ではなく、業務構造そのものを変える力を持つものであり、人材育成はその変革を支える基盤です。人材不足が深刻化する今、自社に合った育成ステップで、着実にスキルを内製化することが、競争力強化と持続的成長へつながるでしょう。
