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【2025】予知保全とは?注目される背景や導入のメリットなどを解説

設備保全の最適化において予知保全が注目されています。

高い精度で故障を予測できるため、自社への導入を検討している経営者も多いでしょう。一方で具体的なメカニズムやコスト、運用の難易度がわからず、導入すべきか迷っている企業も少なくありません。

そこで本記事では、予知保全の概要と注目の背景、メリット・デメリット、企業の成功事例などについて解説します。予知保全の全体像を理解し、現場の生産性向上に寄与するか判断できるので、参考にしてみてください。

予知保全とは

予知保全とは、設備の状態をリアルタイムで監視し、故障が起きる前にメンテナンスの必要性を把握できるメンテナンス手法のことです。英語で「Predictive Maintenance」と呼ばれており「PdM」と表記されることもあります。

具体的には、設備のセンサーが振動や温度、音などのデータを24時間365日収集し続け、取得データはクラウド上のAIシステムに送られる仕組みです。過去の故障パターンと照らし合わせながら、将来起こりうる故障を予測することができます。

予防保全との違い

予知保全と並んでよく登場する用語に予防保全がありますが、両者には下表のように明確な違いがあります。

比較項目 予防保全 予知保全
保全タイミング 時間・稼働時間で固定 設備の実際の状態で判断
初期コスト 低い(既存の体制で実施可能) 高い(センサー・システム導入が必要)
運用コスト 高い(過剰保全が発生しやすい) 最適化される(必要な時だけ保全)
突発故障の防止効果 中程度(点検間隔内の故障は防げない) 高い(予兆を事前に検知可能)
導入難易度 易しい(従来の延長線上で可能) やや難しい(新技術の理解が必要)
部品寿命の活用 低い(早めに交換する傾向) 高い(限界まで使い切れる)

予防保全は、カレンダーや稼働時間などの時間軸に基づいて検査・修繕を行う方式です。メリットは計画が立てやすく、保全作業のスケジュール管理がシンプルな点です。しかし、実際の設備の状態とは関係なくメンテナンスを行うため、使用可能な部品まで交換してしまうデメリットがあります。

一方、予知保全は設備の実際の状態(振動の大きさ、温度の変化、音の異常など)に基づいて検査・修繕の時期を判断するため、故障が発生しそうなタイミングで保全することができます。

予知保全が注目される背景

予知保全が注目される背景
製造業の現場では予知保全への関心が急速に高まっています。その背景には、以下のように製造業を取り巻く環境が変化していることが挙げられます。

  • 製造業の人手不足と技術者の高齢化問題
  • グローバル競争における生産性向上の必要性
  • IoTやAI技術の進化による実現可能性の向上

【2025】建設のDXとは?実現できることとよくある課題

製造業の人手不足・高齢化問題

熟練保全技術者の多くが高齢化し、大量退職の時期を迎えようとしています。ベテラン技術者は、長年の経験から設備の異常を察知してきましたが、定年退職してしまうと貴重な技術やノウハウが組織から失われてしまう「技術継承の危機」が訪れます。

一方で、若手人材の採用が難航しているのが現状です。製造業、特に保全部門は「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージが強く、若い世代からの人気が低い職種となってしまっています。

予知保全は、ベテラン技術者の経験と勘をデータで可視化し、組織の資産として蓄積できる点で注目を集めています。

グローバル競争における生産性向上の追求

新興国の製造業が急速に技術力を高めており、価格競争だけでなく品質面でも日本企業を脅かす存在になってきています。こうした状況下で競争力を維持するには、生産コストを徹底的に削減しながら、同時に生産効率を最大化する必要があります。

突発的な設備故障による生産ライン停止は、製造業にとって最も避けたいトラブルの一つです。さらに、納期遅延によって取引先の生産計画に影響を与えれば、違約金や信頼の失墜といった二次的な損害も発生するでしょう。

予知保全を導入すれば、突発故障による予期せぬライン停止を大幅に削減できます。計画的な保全により、生産スケジュールへの影響を最小限に抑えながら、設備の稼働率を最大化できるのです。

IoT・AI技術の発展

かつて設備の状態を常時監視するためには、高額な専用センサーと大規模なシステム構築が必要でしたが、技術の進歩により小型・高精度・低価格なセンサーが誕生しました。

またIoTの普及により、設備データの収集と送信も容易になったのもポイントです。収集したデータはクラウド上のサーバーに自動送信され、どこからでもスマートフォンやパソコンで設備の状態を確認できます。

さらに重要なのが、AI・機械学習技術の進化です。従来は人間が膨大なデータを目で見て分析する必要がありましたが、AIが自動的にデータのパターンを学習し、異常の予兆を検知できるようになりました。ディープラーニング(深層学習)と呼ばれる技術により、故障予測の精度も年々向上しています。

技術的な障壁が解消されていることから、予知保全は一部の大企業に限定された方式ではなく、あらゆる規模の企業が検討できる技術へと変化したと言えるでしょう。

予知保全のメリット

製造業の現場では技術継承や国際競争の激化、新技術の台頭の影響を受けていますが、予知保全の導入により課題解決を図りやすくなります。主なメリットは以下の3つです。

  • 突発的な設備故障を削減できる
  • 保全コストを最適化できる
  • 熟練技術者の不足を補填できる

上記のメリットを理解すれば、経営陣への提案資料作成にも役立つでしょう。

突発的な設備故障を削減できる

センサーが設備の振動や温度、音などを24時間365日監視し続け、AIがデータを分析して故障の予兆を事前に検知します。例えば、モーターの軸受けが劣化すると通常とは異なる振動パターンが発生しますが、人間の感覚では気づきにくいレベルの変化もAIなら見逃すリスクを抑えられるでしょう。

「あと数週間で故障する可能性が高い」といった具体的な予測が出れば、生産スケジュールを調整して計画的に保守できます。

保全コストを最適化できる

予知保全を導入すると、突発故障を防止できるだけでなく、検査・修繕コストそのものも大幅に削減できます。

従来の予防保全では固定スケジュールでメンテナンスを行っていたため、十分に使用可能な部品まで交換するケースがありました。予知保全であれば、設備の実際の劣化状態を見ながら保全タイミングを判断できるため、部品寿命を最大限活用できます。

予知保全でメンテナンス周期を最適化できれば、通常の勤務時間内に効率よく作業でき、緊急対応コストも大幅に削減できるでしょう。

熟練技術者の不足を補填できる

従来の保全現場では、設備の異常や不具合の兆候を熟練者の感覚に依存していたため、次世代に継承することが難しいのが現状です。

しかし予知保全システムを導入すれば、テラン技術者が長年の経験で培ってきた「正常と異常の境界線」を定量評価することが可能です。具体的には、過去の故障データと正常データを大量にAIに学習させることで、「どういう状態になったら危険なのか」というパターンを自動的に抽出してくれます。

その結果、経験が十分でない技術者でも、システムがアラートを発報することで適切に対応できるでしょう。

予知保全のデメリット

予知保全のデメリット

予知保全には多くのメリットがある一方で、導入にあたって知っておくべき課題も少なくありません。主なデメリットは以下の通りです。

  • 機器・設備の導入コストが高額
  • 専門知識と運用体制が必要
  • データの蓄積に時間がかかる

上記のデメリットを事前に理解し、適切な対策を講じることで導入の失敗リスクを抑えることができるでしょう。

機器・設備の導入コストが高額

予知保全の大きな導入のハードルは、センサーやIoTシステム、データ分析プラットフォームなどの初期投資が必要な点です。数百万円単位の高額な設備投資に加え、場合によっては配線工事や取付工事の費用が追加で発生することもあります。

リスクを抑えるために「スモールスタート」という段階的導入のアプローチを取ることが重要です。具体的には、重要な設備に絞って導入し、効果を検証してから徐々に拡大していく方法が有効でしょう。

専門知識と運用体制が必要

予知保全を導入してもすべてを自動化できるわけではありません。データ分析やシステム運用には一定の専門知識が必要で、保全員が知識・操作スキルを習得するまでに一定の期間を要する場合があります。

具体的には、以下のようなスキルが求められます。

  • センサーデータの読み方と異常値の判断基準の理解
  • AIが出した予測結果の妥当性を評価する能力
  • システムのトラブルシューティングや簡単な設定変更
  • 蓄積されたデータを活用した継続的な改善活動

現場での定着を実現するためには、社内での教育プログラムやOJTによる育成体制の整備が不可欠です。多くのベンダーは導入時のトレーニングサービスを提供しており、継続的な学習の場を用意する必要があります。

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予知保全にはAIやDXなどの専門知識が必要になるため、スキルを身に着けていないと適切な運用が難しくなります、独学で習得するのも一つの手ですが、時間を要するのがデメリットです。

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データの蓄積に時間がかかる

予知保全の効果を最大限発揮するためには十分なデータの蓄積が必要で、一定の時間がかかります。

AIは「正常な状態のデータ」と「異常が発生する前のデータ」の両方を学習することで、故障の予兆を見分けることができます。しかし、新規に予知保全システムを導入した時点では十分なデータが蓄積されていません。

稼働直後は予測精度が低く、システム導入の成果を得られないという状況が続くかもしれません。一般的には数か月以上のデータ蓄積期間が必要で、本格的に高い精度で予測できるようになるまでには数年単位での運用が必要です。

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予知保全導入の企業事例

予知保全は理論だけでなく、実際に多くの企業で成果を上げている実証済みの技術です。ここでは、国内大手企業3社の具体的な導入事例を紹介します。経営陣への提案資料を作る際に、大企業での導入成果とプロセスが強力な説得材料になるはずです。

最大7,000万円の損失を回避|富士電機株式会社

富士電機株式会社は、化学工場のファンモーターに予知保全システムを導入して、最大で年間7,000万円の損失を回避できました。

当社の化学工場では、重要設備であるファンモータの故障予知が課題でした。従来はモータの振動診断を行っていましたが、インバータ(モータの回転数を制御する装置)のノイズが邪魔をして、ベアリングの劣化を正確に検知できないという技術的な問題を抱えていたのです。

そこで、インバータのノイズをカットできる振動センサーとIoT技術を組み合わせた「Wiserot」というシステムを開発。モータのベアリング劣化を正確に検知でき、故障発生前の計画的なメンテナンスを実現しました。

予知保全により、重大な故障を察知して検査・修繕の効率化と金銭的損失の回避を達成した好例です。

参考: 予知保全によるコスト削減・IoT活用事例|富士電機株式会社

メンテナンス費用を40%削減|三菱電機株式会社

三菱電機株式会社の顧客であるメルコ・ディスプレイ・テクノロジー株式会社では、液晶ディスプレイ製造設備のドライポンプに予知保全を導入し、保守費用の大幅削減に成功しました。

ドライポンプは半導体や液晶製造の真空工程で使われる重要な設備で、モータ故障が発生すると生産ラインが完全に停止してしまいます。重大な故障が発生すれば莫大な保守費用も発生するでしょう。

そこで、三菱電機の汎用シーケンサ「MELSEC-Qシリーズ」用の電力計測ユニットを導入。モータに流れる電流の変化をリアルタイムで監視して正常時とは異なるパターンを検出できるため、故障の予兆を事前に察知できます。

導入の結果、メンテナンス費用を40%も削減できただけでなく、交換部品の効率的な管理によって在庫コストの削減も実現しました。

参考: 故障予知保全による安定稼働|三菱電機株式会社<

火災リスク削減と保全効率向上を達成|オムロン株式会社

オムロン株式会社の予知保全ソリューションは、火災などの重大事故リスクを削減しながら、保全業務の効率化も実現できる実例を多数生み出しています。

特に注目すべき事例が、自動車メーカーの塗装乾燥工程における熱漏れ事故防止の取り組みです。塗装乾燥工程では、高温のエアダクトが天井付近に敷設されており、亀裂が発生して熱漏れが起きると火災につながるリスクがあります。しかし、天井付近の設備を毎日点検するのは現実的ではなく、気づかないうちに異常が進行してしまうケースが多発していました。

そこで、オムロンの温度状態監視機器「K6PM」を導入し、赤外線カメラで対象設備の温度を24時間365日リアルタイムに監視する体制を構築しました。温度センサーと異常判定機能が一体となったシンプルな構成のため、大規模なシステム導入が不要です。

導入後は、温度変化をリアルタイムに捉えて異常の兆候を早期発見して、火災事故を未然に防ぐことに成功しました。スモールスタートで予知保全の検証を実施し、全社に展開して重大リスクを排除した事例と言えます。

参考: 予知保全(予兆保全)の導入事例と AI活用時の注意点|オムロン株式会社

予知保全導入を成功させる4ステップ

予知保全導入を成功させる4ステップ

予知保全は大規模なシステムのため、段階を踏んで導入することが重要です。一般的な導入ステップを下の表にまとめました。

ステップ 主な取り組み内容
ステップ1:パイロット導入
  • 故障の影響が最も大きい重要設備1~2台を選定
  • センサーを取り付け、データ収集の基礎を構築
  • 従来の定期点検も並行継続しながらデータ蓄積
  • AIが正常と異常のパターンを学習開始
ステップ2:効果検証とPDCAサイクル確立
  • 実際の効果を定量的に測定
  • 初期投資に対する投資回収期間を算出
  • AIモデルのチューニングで予測精度を向上
  • 経営陣への中間報告と次ステップの予算承認獲得
ステップ3:対象設備の拡大と横展開
  • 同種設備への展開(学習済みAIモデルを流用)
  • 異なる種類の設備へチャレンジ
  • 複数ラインや複数工場への水平展開
  • ベンダーとの定期ミーティングで運用課題を共有・改善
ステップ4:全社的データ基盤整備と標準化
  • 個別システムを統合し全社レベルのデータ基盤を構築
  • 全設備データの一元管理で工場全体を俯瞰的に把握
  • 膨大なデータ分析による知見獲得
  • 経営判断を支援する戦略的システムへ進化

上記のステップを段階的に進めることで、リスクを最小限に抑えながら保全精度の向上を実現できるでしょう。

予知保全導入時の注意点

予知保全は設備の検査・保守において生産性や改善精度の向上を見込めますが、以下のような注意点もあります。

注意点 内容
スモールスタートで始める いきなり全設備に導入せず、1~2台から試行
明確なKPI設定 故障削減率・コスト削減額など測定可能な目標を設定
現場の巻き込み 保全員を早期から参画させ、現場の知見を活かす
過度な期待禁物 100%の精度は不可能と理解し、現実的な目標設定
ベンダー選定の慎重さ 実績・サポート体制・拡張性を重視した選定
継続的な改善 導入後もPDCAサイクルを回し、精度向上を図る
経営層の理解 長期的な視点での投資価値を経営陣と共有
データセキュリティ 製造データの保護とサイバー攻撃対策

上記の項目を理解していないと、導入後に想定外の失敗を招くリスクもあるので、事前に把握しておきましょう。

予知保全のまとめ

本記事では予知保全の概要とメリット・デメリット、導入のステップ、注意点などについて解説しました。予知保全を導入することで設備不良の兆候を事前に察知してメンテナンスできるため、生産性の高い工程を実現することが可能です。

一方で、高額な設備投資やデータ取得までに時間を要することに加え、専門知識が必要な点に注意が必要です。まずはスモールスタートで効果を検証し、自社の要件と照合しながら本格展開しましょう。

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