慢性的な社会問題になっている少子高齢化や熟練工の高齢化に伴い、製造業においては工程の省人化が可能な工作機械の導入が進んでいます。しかし自社生産ラインへの導入を検討しても専門知識がないため、導入を進められないケースも多いのではないでしょうか。
そこで本記事では工作機械を詳しく解説し、種類や加工法、マシニングセンタとの違いや導入のメリットも紹介します。
工作機械とは?
自動車や家電製品など、さまざまな製品の部品加工を行う機械が工作機械です。私達が普段から使用しているあらゆる製品の部品加工が可能なため、「母なる機械・マザーマシン」と呼ばれています。
私達が普段何気なく使用している自動車には30,000点以上の部品、スマートフォンには1,500点以上の部品が組み込まれ、それらの部品は全て工作機械で製造されています。
世界トップクラスの日本の工作機械
日本の工作機械は世界でもトップクラスの精度を誇り、1980年以降は世界生産額トップ3に常にランクインしてきました。その要因として日本の主要産業である自動車業界をはじめとした、機械産業の継続的な発展が考えられます。
また工作機械には各生産国の最新技術が導入されているので、世界的トップクラスにランクインすれば世界有数の技術を保有していることを証明できます。実際に日本の工作機械は「成型(変形)加工」「付加加工」「除去加工」の3つの加工を可能にした、高機能な工作機械として世界中で認識されているのが現状です。
特に近年の技術進化に伴い、付加加工と除去加工の同時進行も可能な工作機械も多数生産されています。
工作機械の重要ポイント
工作機械の重要ポイントとして挙げられるのが、外部からの力に対する強さである剛性です。剛性が高くなれば加工時に強い力がかかっても切削工具が変形しにくくなり、加工精度の向上にも繋がります。
具体例を解説すると、重量のある硬質な製品を剛性が低い製品で研削すれば、研削製品の重量や硬度によって変形が生じて加工精度が落ちるケースも多いです。また製品の重量や硬度に対して工作機械の剛性が適していなければ、振動が激しくなって加工精度が落ちると共に機械故障に繋がるので注意しましょう。
工作機械に必要な精度
優れた製品を製造するためには、高精度な部品を製造できる工作機械の導入が欠かせません。仮に精度の低い工作機械で部品加工を行えば、その部品を使用して製造した製品の完成度も低下して顧客の信用を失います。
したがって高品質な製品部品を製造するためにも、精度の高い工作機械の導入は必須です。特に近年は肉眼では精度の確認が困難な、1μm(マイクロメートル、1mmの1,000分の1)の加工を可能にした工作機械も多数開発されています。
また近年の製造業の現場では工作機械とAIを連携させ、生産データをデジタル化して高精度な生産を可能にする製造業DXも普及しているのが現状です。下記に製造業DXを詳しく解説した記事を添付します。
工作機械の種類を紹介
自動車業界をはじめとした製造業の進化に伴い、現在は多種多様な機能を持つ工作機械が開発・販売されています。工作機械は制作する部品や製品によって、機能や形状もさまざまです。
下記に工作機械の種類や特徴を表記して詳しく解説します。
工作機械の種類 | 特徴 |
ボール盤 | 製品のずれを防止してスピーディーで高精度な穴開け加工が可能 |
中ぐり盤 | 広めの開口を行う場合や、深めの穴を開ける際に使用 |
旋盤 | 切削工具との摩擦により円柱形に加工できる工作機械 |
フライス盤 | 段差加工や平面加工など幅広い加工が可能 |
マシニングセンタ | たった1台でさまざまな加工が可能 |
複合加工機 | マシニングセンタと旋盤加工を1台で行える |
研削盤 | 硬質な素材の製品加工も可能で、表面をキレイに仕上げることが可能 |
歯切り盤 | 傘型や円形など、多種多様な形状の歯車を製造可能 |
ボール盤
ボール盤は金属などの製品の穴開けに特化した工作機械です。加工する製品を専用の台に固定し、切削工具による回転加工で穴開けを行います。
加工時には加工する製品を専用の固定治具で固定するため、製品のずれを防止してスピーディーで高精度な穴開け加工が可能です。
中ぐり盤
ボール盤で穴開け加工した穴に切削工具を回転・貫通させ、さらに穴を広くすることができる工作機械が中ぐり盤です。中ぐり盤は広めの開口を行う場合や、深めの穴を開ける際に使用します。
したがって製品加工時に大きめの開口が必要な場合には最初にボール盤で「下穴」を開けて、その後に中ぐり盤で大きめの穴を開けるのが一般的です。
旋盤
旋盤は金属などの製品を機械に固定・回転させ、そこに切削工具との摩擦により円柱形に加工できる工作機械です。円柱型の部品や製品のほとんどが旋盤を使用して製造されており、製造業にはなくてはならない工作機械として多くの企業で使用されています。
フライス盤
製品を機械テーブル部に固定し、切削工具を回転させて製品を切削加工する工作機械がフライス盤です。製品を固定したテーブルは上下左右方向へ稼働できるので、段差加工や平面加工など幅広い加工を手掛けることができます。
マシニングセンタ
マシニングセンタは手動ではなく、切削工具の自動交換を可能にした工作機械です。フライス盤同様に、切削工具を回転させながら製品と摩擦させて切削加工を行います。
また加工工程のプログラミングが可能なNC装置(数値制御装置)が設置されているので、たった1台でさまざまな加工が可能です。
複合加工機
1台のみでさまざまな工程における加工が可能な、便利な工作機械が複合加工機です。複合加工機を導入すればマシニングセンタと旋盤加工を1台で行えるため、生産効率を高めることができます。
研削盤
研削盤は製品を機械に固定し、製品を回転させながら専用の砥石を押し当てて加工を行う仕上げ作業用の工作機械です。硬質な素材の製品加工も可能で、表面をキレイに仕上げることができます。
歯切り盤
製品を歯車の形に研削・加工できる工作機械が歯切り盤です。動力源としてさまざまな機械で使用されている歯車は、全て歯切り盤から作られています。歯切り盤を使用すれば傘型や円形など、多種多様な形状の歯車を製造可能です。
工作機械の主な加工法
生産現場に工作機械を導入すれば、多種多様な加工を手掛けることが可能です。工作機械で行える主な加工法には
- 切削加工
- 研削加工
- 特殊加工
などの方法があり、加工法によって使用する工作機械も異なります。ではそれぞれの加工法を詳しく解説するので参考にして下さい。
切削加工
切削加工は切削工具により不要な部分を切削・除去し、正規の形状を成型する加工方法です。切削加工は主にフライス盤によるフライス加工や旋盤による旋削加工、ボール盤による穴開け加工や歯切り、中ぐり、ブローチ加工などに分類されます。
研削加工
砥石や砥粒などを利用して製品の表面を切削し、形状を整える加工法を研削加工といいます。研削加工には研削盤を活用した研削やバレル仕上げ、遊離砥粒を利用したラップ仕上げなどが挙げられます。
特殊加工
特殊加工は放電加工やレーザー加工、電解加工や超音波加工などを活用した加工方法です。刃物や砥石では加工できない素材や部位の加工に広く使用されます。
工作機械とマシニングセンタの違いとは
工作機械とマシニングセンタは双方ともに生産における繰り返し精度が高く、複雑形状の加工や量産加工が可能な点などの共通点が多く見受けられます。工作機械とマシニンセンタの違いとして挙げられるのが、自動工具交換装置(ATC)の搭載の有無です。
工作機械では製品加工は自動プログラミングで行いますが、複雑な形状や硬質材料の加工では工具交換が欠かせません。その結果として工作機械では、工具交換時に時間と手間がかかります。
一方のマシニングセンタは自動工具交換装置(ATC)が搭載されているので、生産時の工具交換の時間と労力を削減可能です。
工作機械導入のメリットを解説
工作機械はさまざまな製造現場で使用されている高機能な産業用機械ですが、実際に導入すればどのようなメリットを得られるのでしょうか。では工作機械導入のメリットを解説します。
コストを削減して生産力を強化できる
コストを削減して生産力を強化できるのも、工作機械導入のメリットです。工作機械では生産に必要な条件を入力すれば、機能を最大化して必要以上の作業を行わずに短時間で複数の製品を量産できます。
また加工中の機械監視時間を利用し、同時に複数の工作機械を運転すれば生産性を高まると同時に人件費削減も可能です。
安全性の向上
安全性が向上する点も、製造現場に工作機械を導入するメリットです。従来は手作業で製品の研削を行い、手動式の工作機械の回転に手・指を巻き込まれなどの災害が多発していました。
そこでNC制御などの工作機械を導入すれば、作業者は直接的に切削作業を行わないので巻き込まれなどの心配もなく、安全作業ができます。
品質向上に繋がる
製造現場に工作機械を導入すれば、製品の品質が向上するのもメリットの1つです。従来の工作機械で作業員の機械操作で行っていましたが、現在のNC工作機械では制御盤からの指令によって機械が自動研削します。
プログラム化されたデータに基づいて正確な自動加工を行うため、円形や円錐、曲面などの複雑な形状の高精度加工が可能です。また人間ではなく機械が切削作業を手掛けるので、疲労による品質低下や作業の手違いも減少して製品の品質向上にも繋がります。
工作機械の今後の動向
従来は製品加工時の材料固定や脱着、運搬などの作業は人力で行うのが一般的でした。しかし現在はマシニングセンタやターニングセンタが普及し、製品加工工程の自動化が急速に進んでいます。
さらに近年は加工工程の自動化を可能にした工作機械と、機械への製品の運搬・着脱を実現したロボットとの連携が進んでいるのが現状です。今後はさらに生産工程の自動化が進んでいく見込みで、製造業の自動化に成功して生産性を向上できるスマートファクトリーを導入する企業も増加しています。
下記に製造業における、スマートファクトリーを詳しく解説した記事を添付しますので参考にして下さい。
自社製品に適した工作機械を導入しよう
本記事では工作機械を詳しく解説し、種類や加工法、マシニングセンタとの違いや導入のメリットを紹介しました。現在は自動車産業をはじめ、さまざまな業界で高品質の生産を重視して競争力を高める企業も多く見受けられます。
高精度な製品を開発して自社の競争力を高めるためにも、本記事を参考にして自社製品の生産に最適な工作機械を導入してください。