近年、製造業や金属加工業界で大きな注目を集めている「金属3Dプリンター」は技術の発展・改良が重ねられ多くの企業で導入が進み注目を集めています。造形物の精度や造形速度は飛躍的に向上、費用対効果も高まっていることから導入を検討している企業も多いのではないでしょうか。
一方で精度や速度が向上しても気になるのが造形物の「強度」です。実際には使用する金属の材質や造形方法の組み合わせによっては、強度を高めることが可能です。
本記事では、金属3Dプリンターの概要や造形方式を紹介し、強度を高める方法と材質について詳しく解説します。
金属3Dプリンターの概要
金属3Dプリンターは作成した3Dデータをもとに金属を造形していく装置です。3Dデータをもとにスライスデータを作成、一層ずつ金属材料を積み重ね造形物を作り出します。チタンやアルミニウムなど多様な金属を使用できます。
また、3Dプリンターには金属を造形する「金属3Dプリンター」、樹脂を造形する「樹脂3Dプリンター」があります。30年ほど前は樹脂3Dプリンターでの造形が主な手段であり、金属3Dプリンターはありませんでした。20年ほど前に金属3Dプリンターが誕生し金属の造形物を作ることが可能になりましたが、金属を完全に溶かすことはできず、造形物の精度は高いとは言えませんでした。
現在では高温で溶かすことが可能なため精度の高い造形物の制作が可能ですが、樹脂プリンターと比較すると価格は高い傾向にあります。
金属3Dプリンターを使用するメリット
金属3Dプリンターを使用するメリットは下記3点です。
- 複雑な形状の製造が可能
- 製造コストの削減が可能
- 短納期での製造が可能
複雑な形状の製造が可能
金属3Dプリンターは形状の自由度が高く複雑な形状も製作可能です。
切削加工や鍛造加工など従来の金属加工では難しい複雑な形状でも金属3Dプリンターであれば製作が可能です。
近年は技術の向上により複雑な形状が3Dプリンターでも不可能というわけではありません。しかし、コストが高くなってしまったり造形物の一部が歪んでしまうこともあるでしょう。
金属3Dプリンターを活用すればこういった心配もなく造形が可能です。
製造コストの削減が可能
金属3Dプリンターは鋳造や鍛造の工程を省くことができコストの削減に寄与します。
金属3Dプリンターは最初から一体化した設計データを製作しておき、自由な形状で積層造形をするため部品を使用せず造形物の製作が可能になります。そのため部品数の削減が可能です。また、最近の金属3Dプリンターはモニタリング機能も充実しているので稼働している時の監視は必要ありません。そのため、人的リソースの削減にもつながります。
短納期での製造が可能
金属3Dプリンターは材料と設計データがあれば短納期での製造も可能です。
例えば、従来の方法で製品を外注する場合、加工業者との打ち合わせだけでも2週間ほど時間がかかります。そこから造形物を作成すれば長い期間だと1ヶ月はかかるでしょう。しかし、3Dプリンターでは2~3日で造作することが可能です。また、コンフォーマル流路で冷却時間を短縮、ラティス構造によってヒートシンク・熱交換器の排熱性向上も期待できるでしょう。そのため製作時間は大きく削減でき、造形物を短い納期で造形できます。
金属3Dプリンターの造形方式
ここからは金属3Dプリンターの造形方式下記3つを紹介します。
- 熱溶解積層(FDM)方式
- デポジション方式
- パウダーベッド方式
熱溶解積層(FDM)方式
熱溶解積層(FDM)方式は本来、樹脂3Dプリンターで使用される造形方式です。熱可塑性樹脂と金属粉末を配合し熱で溶かしながら積層し造形を行います。
熱溶解積層(FDM)方式で造形をする場合は材質に注意しなければいけません。なぜなら材料によっては強度が異なるからです。そのため、強度を向上させるのであれば高強度な熱可逆性材料を選びましょう。
また、製品表面がザラつくこともあり製品の見た目を重視される営業用サンプルなどには使いずらいと言えます。
デポジション方式
デポジション方式(指向性エネルギー堆積法)は金属粉末と噴射させながら、レーザーや電子ビームを照射して造形する部分に積層し凝固させます。
デポジション方式で強度を高めるには造形物の表面を清浄し、活性化させ金属粉末の結合を強化しましょう。また、造形スピードは他の方式よりも早く耐久性も優れているため大型の造形物にも最適です。代表的なパウダーヘッド方式と比較しても造形時間は圧倒的なスピードです。
パウダーベッド方式
パウダーベッド方式は主流の造形方式です。レーザーや電子ビームで金属粉末を一層ずつ溶融し積層していきます。
他の方式に比べると造形時間はかかりますが、幅広い分野に適しています。強度を高めたい時には材料に何を使用するのかが肝心です。
ただし、導入費用は高価であり造形物の表面がざらつくため注意しましょう。また、パウダーベッド方式は精密な造形物には向いておらず、レーザーによる加熱と冷却後に生じる歪みという課題もあります。
金属3Dプリンターの強度を高めるには?
金属3Dプリンターの強度を高めるためには下記2点を留意しましょう。
- 強度の高い素材を選ぶ
- 充鎮率を高める
強度の高い素材を選ぶ
金属3Dプリンターで造形物の強度を高める際には先述した造形方式と合わせて強度の高い素材を選ぶ必要があります。
強度の高い素材の基準は、「引張強度」「耐力」「伸び」を材質別に確認しましょう。ただし、強度がとにかく高いものを選べばいいというわけではありません。金属3Dプリンター本体によっても材質との相性はあり積層方向や残留応力によっても強度は異なります。
充鎮率を高める
充鎮率とは、造形物の内部の密度を指します。例えば、充鎮率0%の場合は造形物の内部の密度はないため強度は弱いです。100%の場合、強度は高いと言えます。充填率を高めるにはHIP処理(熱間等方圧加圧)などが有効です。
また、HIP処理(熱間等方圧加圧)に後処理を行えば強度は高くなります。また、ガス圧を加えると造形品の密度は向上します。ガス圧は複雑な造形物でも均等に圧力を加えることができます。
金属3Dプリンターの材質別強度一覧
金属3Dプリンターで使用される材質別強度の一覧は下記表をご覧ください。
材質 | 材質 | 概要 |
純チタン(Grade-2) | 中強度・高延性 | 幅広い用途で使用され、航空機体や医療機器に使用される |
チタン合金(Ti-6Al-4V) | 高強度・軽量 | 熱伝導率が小さく航空宇宙分野や医療分野で使用される |
ニッケル基合金(インコネル718) |
高温強度・高耐食性 |
航空機やガスタービン、ロケットエンジン部品などに使用される |
ニッケル基合金(インコネル625) | 高温強度・高耐食性 | 航空宇宙分野のエンジン部品などに使用される |
ステンレス鋼(SUS316L) | 高耐食性・高延性、優れた靱性 | 航空宇宙分野だけでなく、宝飾品にも使用される |
マルエージング鋼 | 高強度・優れた靱性 | 工具やプラスチック射出成形金型などで使用される |
アルミ合金(Al-10Si-Mg) | 高強度・高硬度 | 熱交換器・ブラケットなどに使用される |
コバルト基合金(CoCr) | 高疲労強度・高温高圧に強い | 人工関節インプラントやエンジンコンポネートに使用される |
金属3Dプリンターおすすめ3選
ここからはおすすめの金属3Dプリンターを紹介します。
メーカー | 製品名 | 価格 |
Markforged | METAL X | 2,000万円〜3,000万円 |
EOS | M290 | 7,000万円~8,000万円 |
Arcam | A2X | 数千万円〜数億円 |
Markforged METAL X
引用:Markforged
MEX方式(FDM方式)の金属3Dプリンターです。世界中で導入実績が多く安くて手軽に使用できる製品です。
3DCADで設計された部品の設計データを専用ソフトで取り込んで造形・脱脂・焼結の3つのプロセスで金属部品を造形します。また、MEX方式は材料がフィラメントであるため、材料交換が簡単にできるため多種多様な製品を大量に生産したい場合におすすめです。
プリンターの価格はおおよそ2,000万円〜3,000万円ほどです。
EOS M290
引用:EOS
EOS M290はドイツのEOSが提供している金属3Dプリンターです。
パウダーヘッド方式で幅広い金属の材料を使用することができます。試作品から最終製品まで生産することができ商品開発にかかるコストを削減することができます。また、「EOSTATE」というソフトウェアがありデータ管理や内蔵カメラによる監視によって造形の品質を管理することができます。
価格帯は7,000万円〜8,000万円ほどで費用対効果は高いと言えます。
Arcam A2X
引用:Arcam
Arcamはスウェーデンで設立された、3Dプリンターメーカーです。
対応材質はチタン、コバルトクロム、インコネル、ステンレスであり、宇宙航空分野や整形外科インプラントで使用されます。高密度、鍛造並みの機械強度、圧倒的な高速造形により生産性の向上が測れます。また、金属パウダーのリサイクル率95%以上を実現し収益性が向上にも寄与します。
価格帯は見積りによって変わりますが数千万円〜数億円程度と言われています。
おすすめ金属3Dプリンターに関しては下記記事も合わせてご覧ください。
3Dプリンターによって強度が変わる
本記事では金属3Dプリンターの概要・強度の高め方や材質について解説しました。
急速な技術の革新により金属3Dプリンターの精度や強度は飛躍的に向上しています。より造形物の強度を高めるためには材質や使用する3Dプリンターによって異なります。造形物の強度をより高めたい場合は本記事を参考にしてみてください。
また、自社で3Dプリンターの導入を検討している場合は費用対効果が高いものや自社の用途にあったものを選びましょう。
